Ado「うっせぇわ」は、もはや説明不要だろう。
2020年に公開以降大ヒットし、街中でも繰り返し流れた。
2021年の「現代用語の基礎知識選 2021ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされている。
言うまでもなく、音楽としての完成度は高い。圧倒的な歌唱力と、痛快に「うっせぇわ」と言葉の刃で断ち切る姿に救われた人も多いだろう。称賛が集まるのは自然だ。
一方で、歌詞に注目したとき、私は一抹の不安を抱く。これは「歌詞が悪い」「共感する人が幼稚だ」と言いたいのではない。むしろ逆だ。効き目が強すぎる“カンフル剤”として、気持ちよさが思考を止めてしまう瞬間があるのではないか、という不安である。
カンフル剤として効きすぎる「うっせぇわ」
「うっせぇわ」は端的に気持ちいい。短く、刺さり、言い返せない日常の鬱屈を代弁してくれる。
ただ、その快感が強いほど、こういう終わり方が起きる。
「うっせぇわ」と言って満足し、そこで止まってしまう。
ここで「うっせぇわ」は、現実を理解するための言葉というより、会話や思考を止める“終了ボタン”として働きうる。社会や職場の矛盾を断罪し、自我を守る。だがそのままでは、現実への関与の回路が細り、かえって身動きが取れなくなる可能性がある。
誤解のないように言えば、「うっせぇわ」と思うこと自体を否定したいわけではない。むしろ、日常に違和感を持てることは健全だ。社畜として“死んだ目”になるより、まだ生きている感覚がある。そこは誇っていい。
問題は次だ。違和感を、消費で終わらせるのか。分解して取り扱える単位にし、次の選択肢へ落とすのか。
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影響力の輪――変えられるところから変えていけ
世の中には、気になるけれど今すぐ自分では変えにくいことがある(会社文化、同調圧力、評価制度、景気)。一方で、少なくとも自分の手で変えられることもある(時間の使い方、スキル、距離、準備、選択)。
ここを混ぜるとエネルギーは散って摩耗する。だから順番を作る。
この順番づけに使えるのが、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)の影響力の輪だ。コヴィーは第1の習慣「主体的である」を語る際に、人の関心を二つの円で整理する。
- 関心の輪(Circle of Concern):気になること全般(会社文化、景気、他人の評価、社会の空気など)
- 影響力の輪(Circle of Influence):自分の行動で働きかけられる範囲(交渉、提案、習慣、スキル、選択、距離の取り方など)
ポイントは単純だ。関心の輪で消耗し続けるより、影響力の輪に資源を集中したほうが現実が動き、影響力も広がりやすい。
だから本稿では、「うっせぇわ」を感情の訴えで終わらせない。終了ボタンにせず、影響力の輪へ翻訳する。たとえば「暗黙のルールがしんどい」という違和感は、次のように手順化できる。
- 何が摩耗を生んでいるのか言語化する(ルール/評価/空気/業務量)
- 影響力の輪を見定める(相談相手、断り方、報告の型、役割調整)
- 自分で決められる点を増やす(学習、発信、応募、貯蓄、生活リズム)
批判を捨てる必要はない。むしろ批判能力があるからこそ、翻訳ができる。叫びを否定せず、「次にやる一手」に変える。
これが「動く」ということだ。
道筋① 副業――小さな実験で、影響の輪を広げる
副業の良さは、いきなり人生を賭けずに「別ルート」を試せることだ。会社の外に小さな足場ができるだけで、職場のルールへの依存度が下がる。依存が下がれば、交渉も断り方も少し楽になる。副業は“自由の獲得”というより、まず摩耗を減らす余地を作る。
大事なのは、理想の副業を探し続けることではなく、現実に接続することだ。副業は思いつきの勝負ではなく、小さな実験の積み重ねで育つ。まずは小さく出して、反応を見て、直す。
- 収益は小さくていい:最初の目的は大金ではなく「売れる体験」を一度作ること
- 学びは出力で回す:「出す→反応→改善」の循環に乗せる(学ぶだけで終わらせない)
- 導線を一つ決める:どこから人が来るのか(SNS/ブログ/知人/プラットフォーム)を固定して試す
副業は、叫びを行動の回路に変える練習になる。影響力の輪の内側に落として「次にやる一手」を作る。
その最小単位が、副業という実験だ。
道筋② 転職――違和感を「仕様」に翻訳する
転職を持ち出した瞬間に、職場や制度の問題が消えるわけではない。だが、制度が変わるのを待つあいだに、こちらが摩耗しきってしまうこともある。だから転職は「逃げ」ではなく、自分の消耗を減らすための現実的な選択肢として扱いたい。
ここでも大事なのは、「うっせぇわ」で止まらないことだ。
違和感を、次の一手に変えるには、まず言葉をもう少しだけ具体的にする。
いまの職場で“削られるポイント”を、条件に言い換えるだけだ。
- 何がきつい?(例:暗黙ルール/長時間/評価の不透明/同調圧力)
- 何があればマシになる?(例:裁量/評価の透明性/心理的安全性/リモート可否)
- どれだけは譲れない?(全部は取れない前提で、最優先を2つに絞る)
この作業をすると、転職の意味が変わる。
「なんとなく嫌だから辞める」ではなく、「自分が消耗しない条件を探す」になる。
だから転職活動は、気合や根性の勝負ではなく、探索になる。求人の見え方が変わり、面接で聞くことも具体的になる。
違和感は、叫びで終わらせれば消耗する。でも条件に落とせば、次の環境を選ぶための情報として機能し始める。
道筋③ 独立――理想より「摩耗の最小化」で設計する
独立は、気持ちだけでは回らない。成果と責任が、ほぼそのまま自分に返ってくるシビアな世界になりがちだ。
憧れや勢いで踏み出すと、前より自由になるどころか、別の形で摩耗する。
だから最初に見るべきは「好きか嫌いか」より、続けられるかどうかである。
独立は、鬱憤ばらしの延長では成立しない。手順がないまま飛ぶと、自由の代わりに不安だけが増える。
だから最低限、次の三つだけは数字と手順に落とす。
- 生活防衛費:当面の固定費を何ヶ月分まかなえるか(まず“何ヶ月もつか”を把握する)
- 受注の導線:仕事はどこから来るのか(知人紹介/SNS/ブログ/プラットフォーム等、入口を一つ決める)
- 継続の仕組み:身体と時間をどう守るか(睡眠、作業量の上限、休む日、回復のルール)
この三点が曖昧なままだと、独立は「自由」ではなく「無限労働」になりやすい。
逆に言えば、ここが固まるほど、独立はロマンから実務へ近づく。
だから副業を挟む価値がある。副業は、いきなり人生を賭けずに、導線と作業量と回復のリズムを試せる。つまり副業は、独立の「夢」を独立の「実務」に変えるための中間段階だ。
『うっせぇわ』のその先へ、歩みを進めろ
「うっせぇわ」と言える感度は弱さではない。違和感を見抜くセンサーだ。
ただしセンサーは、叫ぶためだけにあるのではない。選択肢を作るためにある。
影響力の輪の内側から、変えられるところを変えていく。
転職で環境を選び直す。副業で小さな足場を作る。独立を検討できる形にする。
終了ボタンで止まらず、批判を設計に接続する。
『うっせぇわ』の、その先へ行こう。
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